Home / 恋愛 / 雲城市の黒い契約 ~追放花嫁と檻の帝王~ / 第105話 二人のミッション(2)

Share

第105話 二人のミッション(2)

Author: 柳 雪音
last update publish date: 2026-11-02 19:09:00

「一口……?」

「味見よ、味見。美味しいわよ」

凛はモンブランをフォークにすくった。

クリームを乗せたフォークの先端を怜の方へと差し出す。

すると、怜の顔が——火が吹き出そうなほど、赤くなった。

(え?! 一口味見って、そんなに恥ずかしいこと?!)

怜は顔を片手で覆って、窓の方に背ける。

(ちょっと?! そんな顔されると、急に悪いことしてる気分になるんだけど?!)

凛は、怜に向けたフォークの先を、自分の方へ戻した。

「冗談よ。冗談。美味しかったから、つい——」

そう言って、自分の口元へと運びかけたとき。

「いや、もらうよ」

机の向こうから伸びて来た厚い手のひらが、凛の手首を掴んだ。

怜はそのまま、凛の手をグイッ引っ張り、モンブランを自分の口へと運ばせた。

口元に付いたシャンティクリームを拭って、怜は言う。

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 雲城市の黒い契約 ~追放花嫁と檻の帝王~   第105話 二人のミッション(2)

    「一口……?」「味見よ、味見。美味しいわよ」 凛はモンブランをフォークにすくった。 クリームを乗せたフォークの先端を怜の方へと差し出す。 すると、怜の顔が——火が吹き出そうなほど、赤くなった。(え?! 一口味見って、そんなに恥ずかしいこと?!) 怜は顔を片手で覆って、窓の方に背ける。(ちょっと?! そんな顔されると、急に悪いことしてる気分になるんだけど?!) 凛は、怜に向けたフォークの先を、自分の方へ戻した。「冗談よ。冗談。美味しかったから、つい——」 そう言って、自分の口元へと運びかけたとき。「いや、もらうよ」 机の向こうから伸びて来た厚い手のひらが、凛の手首を掴んだ。 怜はそのまま、凛の手をグイッ引っ張り、モンブランを自分の口へと運ばせた。 口元に付いたシャンティクリームを拭って、怜は言う。「たしかに、あれば食べたくなる」「…………っ!!」 本当に、本当に、なんなのよ! この男は!! 今度は、凛の顔がボッと燃えるように赤くなった。 怜は何事もなかったように背もたれに身を預けた。 凛は、フォークを持ったまま彼を見つめる。(何事もなかったように、なんて…… そんな顔、できるわけがないじゃない!!) もはや、何をやっているのか、分からなくなってきた。「ねえ、これって……」 小声で尋ねる。「任務だろ。立派な」「……そうよ、ね」 凛は紅茶に口をつけた。 改めて、向こうの席に目を向ける。 昼下がりのカフェ。利根川智司は、爽やかな交友を——自分たちより着実に、育んでいた。 すると、突然、向かいの席からうめき声がした。「うぅ……胸が……」

  • 雲城市の黒い契約 ~追放花嫁と檻の帝王~   第104話 二人のミッション(1)

    「利根川社長のアキレス腱——それは医学部生の息子、利根川智司だ」 大学の正門を眺めながら、怜が言った。 「それは聞いたわ。でも、なんで? 家族を人質に取られているってこと?」 「利根川智司は医学部に裏口入学した。そう言われている」 「うそ——?! え、でも待って。だからって、なんで、大学に?!」 「噂は本当か、息子を見極めに来た」 「見極めるって……大学まで来て?」 「そうだ。行くぞ」 怜は何でもないことのように構内に入って行った。 凛は周囲を見回した。講義を終えた学生たちが、連れ立って中庭へ出てくる。笑い声が聞こえ、スマートフォンを見ながら歩く者もいる。 そんな中に、二人だけで紛れ込んでいる。 「……すっごく場違いなんだけど」 凛はバッグの肩掛けを握る。 スニーカーにジーンズ。ラフな格好ではあるけれど、大学生に見えるかと言われれば、そうではない気がした。まして、怜は、どこからどうみても、教わる側ではなく教える側だ。 (謙虚さのかけらもないのよ。学生さんを見習って欲しいわ) 二人は中庭のベンチに腰を下ろした。 怜はタブレットを取り出し、操作しはじめる。 何をしているのか。不思議そうに凛は覗き込んだ。 「株価の推移なんて、今、チェックする?!」 「利根川智司が出て来るまで、あと十分はかかる。時間のあるときに、やっておいた方がいいこともある」 「……今、待ち時間なのね。そういうことは早く言ってよ」 凛は、呆れながらスマートフォンを取り出した。 しばらくすると、怜が顔を上げた。

  • 雲城市の黒い契約 ~追放花嫁と檻の帝王~   第103話 マオタイのアジト

     凛を乗せたセダンが、雲城市のベイフロントに建つ高級マンションに停まる。その一室が、個人投資家集団マオタイの活動拠点となっていた。「お帰りー! どうだった?!」 玄関の扉が開くなり、美玲が顔を出した。「やったわー! 老藤原の関心事は黒川計器の経営権でビンゴ!!」 凛は弾んだ声で答えた。「工場を市外に移転する話題まで出ているからな。早々に手を打ちたいだろう」 凛の背後から佐伯が付け加える。祝賀会が開かれたホテルから凛をこのアジトへ届けたのは、佐伯だった。「ええ。あの様子なら、こちらの話にも乗ってくると思うわ」 凛は満足げに頷いた。そして—— ポイッ。右足のヒールを脱ぎ捨てる。 ポイッ。続けて左足も。「あー、もう、ドレスって本当に肩が凝る! 着替えてくるわ!」「着やすいタイプを貸してるつもりだけれど」 美玲が少し不思議そうに首を傾げた。「美玲さんはスタイルが良いから! 私が美鈴さんのドレスを借りると、お腹をずっと引っ込めなくちゃいけないのよ!」 そう言い残すと、凛はベッドルームの扉を閉めた。 しばらくして、凛が着替えを済ませ、リビングに戻ると、怜も帰ってきていた。 眼鏡をかけ、ソファに腰掛けている。「メガネ姿の怜さまもステキ……」 美玲がうっとりと呟いた。「美玲さんは、憚らなくなったよね」 佐伯が苦笑する。「後輩にも、よく言われます」 美玲は頬に手を当て、涼しい顔で答えた。 凛は二人のやりとりを眺めてから、怜に向き直った。「それで、これから、どうするつもり?」 怜はテーブルの上に置かれた資料を手に取った。「黒川計器の現状を整理しよう」* * *「黒川計器は、外資系ファンドに買収された。 創業家の黒川一族は経営から退き、現在は生え抜きの利根川修一が社長を務めている」 怜が資料をめくる。「社内での評判は悪くない。むしろ、利根川社長を慕う社員は多いようだ。 経営陣も、彼と近しい人間で固められている」「創業家に代わって、社内の人間が会社を立て直している。そういうこと?」 凛が尋ねた。「ああ。少なくとも、表向きはな」「……理想的な経営刷新に見えるけれど」「ところが、そうとも言い切れない」 怜は資料の一枚を指で叩いた。「まず、資金がどんどん社外に流れている。 貸付金ではあるが、

  • 雲城市の黒い契約 ~追放花嫁と檻の帝王~   第102話 コードネームは太太

     雲城市一の格式を誇るホテル。そのバンケットルームでは、新聞社の創立祝賀会が催されていた。「本当に、老藤原は来ているのかしら?」 凛は、手元の扇を広げて一人呟く。 雲城市の財界人や企業経営者、資産家たちが集う華やかな宴。(なんだか、私だけ場違いな気がするんだけど) パチパチと扇を開けては閉じていると、背後から声が聞こえる。「大丈夫だ。垂水の影はない」 振り返ると、眼鏡をかけたウェイターが立っていた。「怜……」 凛は扇をパチンと閉じた。(垂水さんの動向を追って、こんなことをしているけれど——) 凛は自分の姿を見下ろした。 身体にぴったりと沿うドレス。胸元には大粒のジュエリー。手には扇。 普段の自分とは似ても似つかない装いだ。(なんで私がこんな格好を——!) 凛は怜を睨むように見上げた。「ターゲットに集中しろ。老藤原は、あの奥だ」「あの、いかにも高級そうなスーツを着ている人?」「違う。その隣。チェックの上着を着ている男がいるだろう?」 凛は目を凝らした。「うそ?! あんなヨレヨレのジャケットを着ている人がそうなの?! どう見ても雇われ人って感じじゃない」「見た目で金持ちだと示す必要がないんだろう」 怜は手にしていたシャンパングラスを凛に差し出した。「上手くやれよ」 凛はグラスを受け取る。「分かってるわよ」 優雅な笑みを浮かべ、老人のもとへ歩き出した。* * * 凛は人混みを縫って、会場の奥へと進み、老人に声をかけた。「古いものには、価値があると思われますか?」 凛は扇を少しだけ傾けた。老人の目が、わずかに細くなる。「古いだけでは駄目だ。手入れをして、使い続けてこそ価値がある」「ええ。おっしゃる通りですわね」 老人は凛を見つめた。「なるほど。君が太太か」「お会いできて光栄です」凛は優雅に一礼した。「それで、今日は何の用かな?」「少し、お話をさせていただければと思いまして」「わしと?」「はい。雲城市の企業に長く関わっていらっしゃる藤原様に、きっと喜んでいただけるお話が出来ると思いますわ」「これは、ずいぶんと大きく出たものだ」 老人は小さく鼻を鳴らした。「君たちは何者だ?」「マオタイは個人投資家集団です」「代表者は?」「いません」「出資者の名簿は

  • 雲城市の黒い契約 ~追放花嫁と檻の帝王~   第101話 神崎怜の値打ち(下)

    入り組んだ隠し通路の先に、佐伯のアジトはある。「世話になったな」怜は佐伯に声をかけながら、身体に巻いていた爆弾を外した。「爆弾……」凛は固まったように呟く。「こんなもの巻いて……どうするつもりだったのよ……」その声は震えていた。顔は青ざめている。(まただ。いつも、オレは、一条凛に、こんな顔をさせている)自分の不甲斐なさを自覚すると、怜は、舌打ちをした。「想像の通りだよ」「危ないじゃない!!」「君の方こそ、危ないだろう!!トラックで事務所に突っ込むなんて、正気の沙汰じゃないぞ?!」怜は凛を怒鳴りつけた。(違う。そういうことが言いたいのではない)怜は眉根を寄せて、訂正した。「……もっと、自分を大切にするべきだ」「はあ?! その言葉、そっくり返すわ!!」凛はドサリとソファに腰掛ける。青い顔に、目をくりくりとさせ、全身で怒りを表している。「……何をそんなに怒っているんだ?」そう問いかけてから、怜は気付いた。(まさか、久世との会話を一条凛も聞いていたのか?そうだとしたら、また、失礼なことを言ってしまった……)本心ではないと、弁明するつもりはなかった。彼女は、自分のことなど、どうとも思っていないかもしれない。それでも「利用していた」と聞けば、嫌な気分にもなるだろう。凛は、めいっぱい怜を睨みつけていた。「だから言っているでしょう? あなたが、自分を大切にしないから怒ってるの

  • 雲城市の黒い契約 ~追放花嫁と檻の帝王~   第100話 神崎怜の値打ち(上)

     久世玄の応接室。 神崎怜は、爆弾を巻いた身体を隠そうともせず、久世を見据えていた。 爆弾をちらつかせ、膠着状態を作ることには成功した。 しかし、分は悪い。 相手は複数。こちらは一人。爆弾があるとはいえ、久世を確実に巻き込むには、相手の出方を見極める必要があった。 垂水のことは、佐伯に任せるしかない。 あとは久世を確実に巻き込み、黒竜会の中枢を潰す。 それで、凛に手を出す者はいなくなる。 怜は、部屋の出入口に立つ男たちを見た。 そのときだった。 道路から、けたたましい音が近づいてくる。 エンジン音。しかも、やけに大きい。「……何だ?」 久世が眉をひそめた。部下の一人が窓の外を覗き込み叫ぶ。「トラック——?!

  • 雲城市の黒い契約 ~追放花嫁と檻の帝王~   第5話 切り捨てられた花嫁

    視線が、すべて神崎怜に集まる。白に満ちた大聖堂の中で、彼の黒いスーツだけが異質に際立っていた。彼は動かない。何も言わない。ただ、冷たい瞳で血の気を失った私を見下ろしている。ざわめきが、徐々に大きくなっていく。「やはり……」「最初からおかしかったのよ」「神崎家に、あんな女が……」非難の声が、白い空間を冷たく凍てつかせた。(……まさか)胸の奥が、冷たく軋む。これが、神崎怜の望んだ光景だったのだろうか。私を神崎家から排除するために?最初から、この結婚式そのものを壊すつもりだったの?でも、どうして……そんなことをすれば、神崎家の名声にも傷がつくはずなのに。分からない

  • 雲城市の黒い契約 ~追放花嫁と檻の帝王~   第4話 疑惑の証拠

    「証拠はあるのですか」静まり返った大聖堂に、誰かの声が響いた。蘇我美玲は、ゆっくりと頷いた。その所作は、どこまでも美しく、完璧だった。無駄がなく、乱れがなく、揺るぎない。生まれながらに“正しい場所”に立ってきた人間の動き——それが彼女だった。「目撃証言に加え、いくつかの記録がございます」白い手袋に包まれた指先が、丁寧に黒い封筒を開く。乱暴さは一切ない。誰かを貶めるためではなく、ただ“事実を正す”ための、静かで冷たい手つき。「こちらをご覧ください」写真が、参列者の間をゆっくりと回されていく。ざわめきが、徐々に大きくなっていく。抑えた驚きの声、押し殺した非難。白い空間

  • 雲城市の黒い契約 ~追放花嫁と檻の帝王~   第3話 断罪

    「神崎家の妻に、相応しくありません」蘇我美玲の声は、大聖堂の高い天井まで澄み渡った。一瞬で、白い空間の温度が急激に下がる。ざわめきが波紋のように広がり、参列者たちの視線が一斉に私へと突き刺さった。美玲は微動だにしない。完璧な姿勢で立ち、私を真正面から見据えている。そこにあるのは、怒りでも憎しみでもない。ただ、冷たいまでの確信だけだった。「その方には、複数の男性との不適切な関係が疑われています」息が止まった。会場が、再び大きくざわついた。「まさか……」「神崎家の結婚式で、そんな……」「信じられない」非難と好奇の声が、白い壁に冷たく反響する。私は唇を震わせ、かろうじ

  • 雲城市の黒い契約 ~追放花嫁と檻の帝王~   第1話 血に染まった結婚式

    永遠の愛を誓った直後、夫が私を撃った。乾いた銃声が大聖堂に響いた瞬間、左肩に灼熱の痛みが走る。熱い。まるで鉄の棒を押し当てられたような、焼けるような熱。すぐに、純白のドレスに赤が広がっていく。痛みは遅れて、波のように全身を襲ってきた。どうして。その問いは、喉の奥で凍りついた。目の前には、神崎怜。彼は何も言わない。ただ、静かに私を見下ろしている。冷たいはずの瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた気がした。まるで、何かを必死に押し殺しているように。(……見間違いだ)この男に、そんなものがあるはずがない。「……夢を見ていたみたい」掠れた声で、私は呟いた。「とても、悪い夢を」

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status